講座情報

第3期 第1回 放牧酪農家にとってのアニマルウェルフェア

2020年10月20日

講師:吉川 友二
ありがとう牧場 代表

・農業とは唯一、無から富を生みだす産業。農業で一番大事なことは、自然の力を最大限に引き出すことである。放牧酪農は奇跡の農法であり、草しか育たない自然の厳しい地域で、人間が豊かに生きることができた。牛を野山に放すと、(牛が)大地を踏み、植物を食べ、糞尿を散布することで草地という生態系を創りだす。放牧をしていると、草地更新(土を起こし、牧草の種を蒔き直すこと)が必要ない。

・アニマルウェルフェアは、学問的な数字でなくても、人が動物の身になって感じて、判断することができる。日本の乳牛の平均生産寿命(産次数)は2.5産と低い。牛の寿命は動物福祉の指標になりうる。北海道東部の標茶町の平均産次数は2.8。同じ町でも放牧酪農家の平均は3.6産だった。放牧をすれば、酪農家は30頭の搾乳牛で豊かに暮らしていける。

・動物福祉に力を入れているオランダでは、放牧が義務化される方向になってきた。飼育頭数の4%減、濃厚飼料を減らす、平均産次の目標を5産にする、バイオガス発電は効率が悪いので発電しないで糞尿を土壌の栄養として循環させる--などの施策に取り組んでいる。

・日本のAWの問題点として、次のことを挙げたい。
※規模拡大によって酪農家のストレスがたまり、牛を虐待する。朝から晩まで働き、後継者が残らない→農家戸数が減る→さらに規模拡大→牛は濃厚飼料を詰め込まれ、乳量の増加を迫られる。
※舎飼いは、食べる世話から下の世話までの「介護酪農」。放牧酪農は、牛にできることは牛にやらせる。乳量の増産とは、「規模拡大+舎飼い+穀物の多給」を意味する。放牧してみないと、牛の偉大さは全く分からない。
※50頭以下の酪農場に比べ、100頭以上の大規模農場は牛の事故率が7倍になる。

・消費のあり方についての問題点は?
※生産者と消費者との距離が遠く、スーパーでパックに入った牛乳や、トレイに入ったお肉しか見たことがない。実際の牛を見たり、触ったことがない。
※そうした一方で、ロンドンのパブでは、狂牛病で殺処分されている牛たちをテレビで見て、涙を流す都市住民がいる。