講座情報

第1期 第4回 アニマルウェルフェアから見る放牧酪農の有利性

2020年1月18日

講師:須藤 純一
一般社団法人日本草地畜産種子協会放牧アドバイザー

1950年 岩手県生まれ。酪農学園大卒業。岩手大大学院修士課程修了。
31年間にわたり一般社団法人北海道酪農畜産協会の畜産コンサルタントを務めた後、酪農学園大の特任教授も。
現在、仁木町内で果樹園を経営。

・酪農経営の3大費用(飼料費・労働費・乳牛や施設などの減価償却費)をコントロールすると、生産コストの低減に寄与できる。乳牛のコスト計算は4産で減価償却を終えるが、実際の産次数は全道平均で2.6産と短く、生産コストを引き上げている(牛の短命化)。また、経営規模を拡大した農場のほうが多くの生産コストがかかり、牛の供用年数も短い。

・国の「畜産クラスター事業」によって施設や機械の投資が増大する一方、濃厚飼料の多給や労働力の外部依存が強まっている。通年舎飼いで購入飼料への依存度が高まり、規模拡大に伴う過重労働や労働力の外部依存(外国人労働)も進行。施設・機械への過剰投資や乳牛の供用年数の短縮化で、減価償却費の増大を招いている。

・経産牛1頭あたりの所得は、飼養数50頭以下が44.7万円と最も高く、100頭以上は28.3万円で全体平均を下回る。事故率も大規模層ほど高い。所得率は大規模化するほど低い。

・「売上高重視型」の農場では、フリーストール方式による通年舎飼いによる疾病の顕在化がアニマルウェルフェアの問題に波及している。一方、「所得重視型」の農場は、放牧+冬季舎飼いでタイストール(つなぎ飼い)とフリーストールが混在しており、中には周年放牧で乳牛の健康維持を探求している農場もある。

・道内の乳牛疾病の発生状況をみると、心不全など突発的な死亡(18.6%)、繁殖障害(14.4%)、乳房炎(12.6%)、肢蹄病(9.8%)の比率が高い。こうした状況は高泌乳経営で多い傾向にある。

・年間の経産牛淘汰率は30%にも上り、牛群の3分の1が入れ替わる。乳牛は3回出産するまで成長するが、かなりの数がその前に淘汰されてしまう。まだ成熟していない1~2産が搾乳牛群の6割を占めており、アニマルウェルフェアの面でも大きな問題である。

・飼料の自給率を高めると、平均産次数を伸ばすことができ、AWの向上にも貢献できる。良い放牧草は配合飼料と同じくらい栄養価があり、牛が乳を出してくれる。(舎飼いで人間が世話をしなくても)牛がすべてやってくれる。

・放牧には、飼料自給率の向上をはじめ、疾病の軽減、育成費用の低減、資源循環型酪農による環境保全といった有利性がある。留意点としては、放牧期の栄養管理や土づくり、牛群の管理と観察、放牧に適した牛づくりが挙げられる。

・放牧牛乳の特色として、①一般の牛乳の1.5倍以上の共役リノール酸、同2倍以上の青草由来のビタミン(βカロテン)が含まれる、また ②国産粗飼料の給与率は100%である。すでに ③日本草地畜産種子協会の放牧畜産生産基準を満たした認証農家で生産された牛乳(よつ葉放牧牛乳:産直方式)や農家加工の放牧酪農乳製品がすでに販売されている。